6. 民事信託を活用した事業承継

2025/07/25

従来、事業承継のスキームは、現オーナー社長から後継者(後継者が株式を有する資産管理会社等の法人も含む)へ株式を贈与・譲渡する、現オーナー社長の死亡時に遺言等を用いて承継する、またはそれらを組み合わせる方法が一般的でした。
しかし、高齢化や認知症リスクの増加、家族観の変化により、従来のスキームでは対応が難しいケースが増えています。
複数の相続人間での資産配分調整など、オーダーメイドのスキームを求める声も強くなっています。

このような背景から、民事信託(家族信託)への関心が高まっています。
信託では、現オーナー社長が委託者となり、受託者に財産の名義を移します。
受託者は形式上の所有者となり、特定の受益者のために財産を管理・運用します。
信託の条項を工夫することで、受託者の権限や受益権の設定などを柔軟に設計できます。
信託法の枠内で自由度の高い運用が可能であり、民法・会社法の枠組みでは実現できないニーズに対応できる点が特徴です。

例えば、事業承継において、株式を信託し、現オーナー社長が受益者となり受益権を持ちつつ、後継者を受託者として議決権を委ねることができます。
後継者の舵取りに疑問が生じた場合は受託者を変更することで、新たな後継者に事業を委ねることができます。
このようなスキームは会社法上の方法では設計が困難です。

ただし、民事信託を用いたスキームが万能というわけではありません。
信託活用の実務では、税務・登記・金融機関対応などの周辺領域との連携が不可欠です。
信託法上可能であっても、実務上実現が難しい場合もあります。
信託した株式については、事業承継税制が適用されないなど税務上の問題が生じることもあります。

民事信託は、法的整理と実務上の整理が一致していない部分も多く、慎重な実行が求められますが、これまで実現できなかった事業承継ニーズを実現できる手段でもあります。
なお、資産承継も同様に民事信託ならではのニーズ実現が可能ですので、次回詳細をお伝えします。

この記事の執筆者

田中 康敦
Y&P ファミリービジネスコンサルティング
田中 康敦

弁護士法人Y&P法律事務所 パートナー
弁護士・民事信託士